The AI Summit San Francisco 2018 レポート③

日本におけるAIサービスの参入障壁とビジネスの可能性
髙木 亮   Ryo Takagi
Marunouchi AI Club Executive Secretary

今回のAIサミットにはユニークなサービスが多々展示されていた一方で、そのアイデアを支える基本技術は、従来型のRDBデータの解析を除けば画像認識と自然言語処理に絞られたと感じました。

画像認識も自然言語処理もその利用法は様々です。画像認識は映像分野にも医療分野にも、その他多数のサービスに用いられており、現在のAIを支える技術の代表格と言えるでしょう。また、自然言語処理も古くは構造解析から、近年はVoice UIの発展とともに再注目を浴びている、もう一つの代表格と言えると思います。

これら基礎技術を用いてAI関連サービスを提供するというのが今回のAIサミットのトレンドでした。現在のドル箱AI基盤と言ってもいいでしょう。今後のIoTへの活用という意味でも注目度の高いトップ2の基盤だと思います。

そこで、これらのサービスを日本に輸入して適用したいと考えたとします。何が起きるでしょうか。

画像認識に関しては、恐らく目立った障壁はないでしょう。もしかしたら地域的民族的特徴をモデルに反映させる必要があるかもしれませんが、それは根本的なデザイン変更を必要とするものではないかと思います。国際展開を考えずに開発を行ったサービスであっても、モデルデータを各国用のデータに変換可能にすることで比較的楽にサービスの国際化が可能になると考えられます。

逆に、画像認識を用いた国産サービスを開発したい場合、今既に世界中で展開されているサービスにはない特徴を他サービスに比肩するクオリティで提供する必要があり、立ち上げから国内ではなく世界を見据えたサービスの展開図が必要になることが予想できます。そのため、参入にはある程度の体力が必要になるのではないかと予想します。

対して、自然言語処理(NLP)はどうでしょうか。NLPは言語依存のサービスであり、サンフランシスコで紹介されていたNLP系のサービスは基本的に英語でのサービスでした。日本への参入という観点では、十分な用意のある企業や、もともとローカライズを生業としている企業のみが考慮に入れている、という状況でした。

例えば、出展していたCOMPLIANCE.AIというスタートアップは、最新のコンプライアンスに関する規則を公的文書から抽出し、注釈をつけてプライオリティ付けと共に順守を提案するサービスを紹介していましたが、国際化を考えた場合、各国の規則を各国の専門機関から文書として引き出し、各国語で構文解析を行いトピックを抽出する必要があり、結果として国をまたいだサービスを展開するにはコストがかなり高くなります。開発者もアメリカ国外、特に非ラテン語圏でのサービス提供には慎重でした。

これは一例ですが、仮に欧米のNLPサービスを日本にそのまま当てはめるとすると、サプライヤーと実装担当双方にそこそこの痛みが伴うことが想像できます。

また、日本語に関して言えば、NLPに関わらず、RDBデータの解析やデータクレンジングを行うサービスであっても、やはり言葉の問題は発生します。コンピューター上の日本語は、シングルバイト時代から現在のUnicode IVSに至るまで実に複雑な歴史を持っており、実データも実装のマナーが時代によって異なります。これに従来からの名寄せ問題が加わり、特に官公庁向けデータなど、異体字が必須であるサービスにAIを適用する際の真のボトルネックとなり得ます。これらすべてを理解し処理するのは、欧米のサービスではなかなか難しいでしょう。今の段階においては、多くの開発者が日本語自体がAI導入の障壁だと感じているのではないでしょうか。

日本語の処理で、NLP、文字列管理、名寄せと言ったことを考えた場合、サプライヤーは投資に対するリターンが十分か、均質なクオリティを提供できるかなどを考慮しなくてはならず、サミットでは数社を除き足踏み状態であるように見受けられました。

そうであれば、その足りない部分をローカルのサービスで補完するというのが理想的な形であり、日本語を”正確に”扱うサービスは大きいビジネスチャンスがあるのではないかと筆者は考えています。日本固有の課題を日本で分析し、その上でサービスを提供することには大きな意味があると思います。これはNLPでも同じで、当たり前ですが日本語の言語学者の多い日本でサービスを練ることは製品精度において大変価値がありますし、産学プロジェクトとしても魅力的です。

トップ2の一つである言語処理の底上げを図る意味でも、国産の言語処理サービスが充実されれば日本のAIマーケットはより強く推進するのではないか、というのが筆者の希望的観測です。

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髙木 亮  -Ryo Takagi - 
2年ほどヒマラヤを転々とした後、千葉大学大学院自然科学研究科修了。後に日本マイクロソフト社に所属し、Visual Studioおよび開発者向けライブラリ等の開発者向け製品のサポートおよびコンサルティング業務を5年間担当。その後Microsoft Corporation HQ へエンジニアとして移籍し、12年間本社にてWindows OSの開発に従事。在籍中にUniversity of Washington Data Science Certificateを取得。現在は独立し、シアトルにてBIおよびAIのテクニカルコンサルタントとして活動中。自然と人とテクノロジーが好き。